麻布十番総合法律事務所
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破損した紙幣の引換えと新紙幣の発行 2023年12月15日

1.紙幣の引換え
 先日,事務所で扱っている紙幣が破れているのを発見しました。セロハンテープで修復されていますが,ATMでの入金はできませんでした。紙幣が破損して,使用できなくなった場合はどうすればよいでしょうか。
 「紙幣」は,正式には「日本銀行券」といい,「日本銀行券の引換え」という制度がありますので,別の紙幣に交換することができます(日本銀行法48条)。引き換えてくれるのは,「日本銀行」です。「郵便局」ではありません。この引換手数料は無料です。
 紙幣の引換をしてくれるのは,①「汚染,損傷その他の理由により使用することが困難であると認められる」ときで,②紙幣の裏表が具備されていなければなりません。
 その紙幣の面積の3分の2以上が残存していれば,その額面価格の全額の紙幣に引き換えてくれます。紙幣の3分の2以上が残っていなくても5分の2以上の面積が残っていれば,額面の半額の紙幣に引き換えてくれます(日本銀行法施行規則8条1項)。日銀HPにも説明があります。
 引換の場所は,日本銀行の「本店」か「支店」になります(日本銀行法施行規則8条1項)。日銀の「支店」は全国32か所しかありませんので,すべての県に設置されているわけではありません。

 

2.日本銀行本店での引換え日銀本店
 実際に日本銀行本店に行き,紙幣の引換をしてきました。
 事前に問い合わせましたが,大量の枚数の引換は予約が必要ですが,1枚でしたら予約なしで営業時間内(9時~15時)にお越しくださいとのことで,予約不要でした。
 日銀本店は,東京都中央区日本橋本石町2-1-1にあります。東京メトロ銀座線(半蔵門線)「三越前駅」のA8出口から歩いて3分くらいで到着しました。神田駅からだと多少歩くこととなるようです。
 三越前駅A8出口から西へ向かうと,趣のある建物が見えてきました。入口は西側にはないので,ここから右へ曲がり,さらに左に回ると,警備員がいて,「北門」に到着します。警備員さんに,破損した紙幣の交換に来たと伝えると,北門玄関まで行って荷物検査を受け27番窓口に行くよう指示されました。
 北門玄関から入ると,手荷物を預け,X線検査の機械を通します。また,ゲートをくぐり,金属を身につけていないか検査されます。空港での検査と同じです。
ロビーの前方左側には,ゲートがあり,入館カードが必要となりますが,お札の引換は,前方の窓口でできますので,入館カードは必要ありません。身分証明書の提示もありませんでした。まっすぐ進むと,窓口がいくつもある広大なスペースに入ります。そのまま進み,左に曲がって歩いていくと27番の引換の窓口があります。
 窓口で,紙幣を見せると,「引換依頼書」を記載するよう言われます。金額と,住所氏名,電話番号等を書きました。裏側に損傷の経緯を書く欄がありました。書き終わると番号札をもらいます。
 ソファーでしばらく待っていると隣の26番窓口から,番号を呼ばれます。ここで,新しいお札を受け取り,引換の手続は終了しました。
 警備の人や案内の人が多く,来訪者には丁寧に対応してくれました。唯一,26番窓口の担当の人の声が小さく,番号を呼ぶ声が聞こえにくかったのが難点でした。


3.新紙幣の発行
 ところで,来年(令和6年)7月3日より,新しいお札(紙幣)の発行が始まります。日銀本店の窓口にもパンフレットが置いてありましたので,持って帰ってきました。
 新紙幣のデザインについては,平成31年4月にすでに発表されており,1000円札の肖像画は「北里柴三郎」,5000円札の肖像画は「津田梅子」,10000円札の肖像画は「渋沢栄一」であることは周知のとおりです。なお,新紙幣の裏面は,10000札が東京駅丸ノ内駅舎,5000円札がフジの花,1000円札が葛飾北斎の冨嶽三十六景(神奈川沖浪裏)が描かれるそうです(国立印刷局新しい日本銀行券特設サイト)。

 

4.紙幣の発行権限と種類,様式
 わが国における紙幣を発行できるのは「日本銀行」です(日本銀行法46条1項)。紙幣は,法律上は,「銀行券」といいます。日本銀行が発行する銀行券が,法貨として通用力を持つことなります(日本銀行46条2項)。この規定によって我々は「日本銀行券」を単なる紙ではなく,価値のある通貨として利用することができているのです。
 日本銀行券の種類は,「政令」で定めることになっています(日本銀行法47条1項)。その政令が,「日本銀行法施行令」(平成9年政令第385号)で,「日本銀行券の種類は,一万円,五千円,二千円及び千円の4種類とする」と定められています(日本銀行法施行令13条)。
 日本銀行券の「様式」は,財務大臣が定め,公示します(日本銀行法47条2項)。「公示」とは公に示すことを言いますが,具体的には「告示」という形式で発せられ,官報に掲載されます(官報の発行に関する法律4条1項1号)。
 その告示は本日付で発せられました(令和5年財務省告示第314号)。「令和六年七月三日から日本銀行が発行を開始する日本銀行券壱万円、五千円及び千円の様式を定める件」という告示です。
 この告示で,お札の「寸法」「用紙」「表」「裏」などが定められています。
 平成16年以来20年ぶりの新札には,傾けると肖像が回転する3Dホログラムの技術が用いられており,話題になることでしょう。
 なお,「2千円札」については,新札の発行はありません。

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