麻布十番総合法律事務所
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有期労働契約の無期労働契約への転換 2017年9月21日

1.有期労働契約
 会社や各種法人と,そこに勤務している労働者との契約関係は,通常「労働契約」です。会社,すなわち,使用者は,労働者の労働の対価として,賃金を支払います。

 わが国の多数の会社は,期間の定めがない労働契約で労働者を雇用していると思われます。労働者は,特段の事情がなければ定年までその会社に勤務できます。

 他方で,わが国の法規制では,解雇の自由が極めて厳格に制限されていることから,労働期間を無期ではなく「1年」,「2年」などの期間を定めて労働者を雇用している会社もあるようです。

 労働期間については,最長でも「3年」と定められています(労働基準法14条1項。例外として専門的知識を有する者,60歳以上の者との労働契約は最長5年)。もともとは,紡績工場や風俗営業における長期にわたる人身的な拘束を避けるだったため目的の規定で,原則最長1年という規制でした。産業構造や近年の雇用環境の変化により,平成10年及び平成15年改正を経て,現在の規定に緩和されました。

 有期契約の労働者の契約期間満了が近づくと,そのまま労働契約が終了するか,契約を更新するか,使用者との間で合意することとなります。現実的には,会社が,その労働者の継続を決めれば更新,更新を拒絶すれば退職となることが多いでしょう。

 

2.無期転換ルール
(1)有期労働契約の問題点
 ところで,例えば1年で雇用されている労働者にとっては,毎年毎年更新されるかどうかわからず,不安定な地位に置かれます。使用者も,本来無期契約で雇用すべき労働者についても安易に有期労働契約を利用することは避けるべきであるといえます。

(2)労働契約法の改正
 そこで,平成24年の労働契約法改正により,有期労働契約の無期労働契約への転換の規定が新設されました(労働契約法の一部を改正する法律(平成24年法律第56号))。この規定の施行は,平成25年4月1日です(労働契約法の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令(平成24年政令第267号))。

 すなわち,有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えれば,労働者の申込みにより期間の定めのない労働契約に転換されます(労働契約法18条1項)。法律的には,労働者が,無期転換申込権を行使することにより,使用者が承諾したとみなされることになるので,有期契約の労働者が「形成権」を持つこととなります。

(3)使用者のすべきこと
 したがって,会社としては,就業規則を改定したり,有期労働者に対する「無期労働契約転換申込書」のひな形を作成したりするなどの準備が必要です。

(4)通算契約期間
 「締結」された2つ以上の有期労働契約が通算して5年を超えたときに,無期転換申込権が発生します。通算する契約は,施行の日(平成25年4月1日)以後に契約の初日がある労働契約から算入し,施行の日より前に契約の始期がある労働契約については算入しません(労働契約法の一部を改正する法律(平成24年法律第56号)附則2条)。

 例えば,平成25年1月に1年の有期契約をし,平成26年1月,平成27年1月,平成28年1月,平成29年1月にそれぞれ1年ずつ更新した場合,平成25年1月からの1年は,通算契約期間に含まれず,平成26年1月から起算して5年ということになります。

(5)無期転換申込権の発生時期
 無期転換申込権の発生時期は,通算契約期間が実際に5年を超えたときではありません。「締結」した契約の通算期間が5年を超えたときです。
 例えば,平成23年1月に3年の有期契約をし,平成26年1月及び平成29年1月にそれぞれ3年ずつの更新をした場合,平成25年4月1日以降の始期が対象となるので,平成26年1月から起算し,平成29年1月の時点で,通算契約期間は6年となり,5年を超えますから,更新後の,平成29年1月からすでに,無期転換申込権が発生していたことになります。
 契約期間が1年のときには,5年を超えるときは5回目の更新のときですので,特に注意は不要です。


3.無期転換を避けるには
 会社など使用者からすれば,せっかく有期契約で雇用したのに,5年の経過で無期契約に転換することに困惑することも多いと思います。
 だからといって,「無期転換申込権」が発生しない内容の就業規則を作成しても無効ですし,労働者に「無期転換申込権」を放棄させることもできません。したがって,無期転換を避けるには,通算契約期間が5年を超える前に,契約を終了させることしか方法はありません。すなわち,更新を続けて無期契約となるか,退職となるかの二択しかありません(5年経過した無期契約労働者が転換申込権を行使しないことも可能性としてはありえます)。
 本来,有期契約なのですから,契約期間満了時には更新しないことが原則であるはずです。更新するのであれば,ゆくゆくは無期転換がありうることを考慮して,慎重にすべきです。
 ただし,何度か更新をして無期転換となる前に,契約終了とすると,実質は解雇とみなされ,客観的に合理的な理由があり,社会的に相当でなければ,無効と判断されることもあります(労働契約法19条)。
 今回の無期転換ルールの新設は,使用者にとって,もともと厳しい労働制度にさらに厳しい規制が加えられたと評価することもできます。