麻布十番総合法律事務所
ご連絡先


国会議員の二重国籍問題 2016年11月21日

1.国籍の取得
 日本国民であるためには,「国籍」がなければなりません。日本国籍を有する人が日本国民であるといえます。
 国籍の取得や喪失などの手続については,法律で定められることになっています(憲法10条)。具体的には「国籍法(昭和25年法律第147号)」という法律があります。
 国籍の取得については,主として,「血統主義」と「生地(せいち)主義」という考え方があります。親と同じ国籍を付与するのが「血統主義」で,親の国籍にかかわらず,子に生まれた国の国籍を与えるのが「生地主義」です。世界的には「血統主義」をとる国の方が多いようです。
 例えば,親が日本国民ならその子も日本国籍を有するという制度(国籍法2条1項)は血統主義で,アメリカで生まれた子にはアメリカ国籍を付与するという制度は生地主義です。
 なお,昭和59年改正前は,父が日本国籍者でないと,その子も日本国籍を有しないこととなっていたので,例えば,日本で出生(しゅっしょう)したアメリカ人父と日本人母の子は,日本国籍を持てないでいました。

 

2.二重国籍者の義務
 したがって,日本国籍を有する両親から,例えばアメリカで子が出生すると,その子はいわゆる二重国籍となります。
 二重国籍者は,原則として22歳までに,日本か,外国かのいずれかの国籍を選択しなければなりません(国籍法14条1項)。
 この国籍の選択には,2つの方法があります。(1)外国の国籍を離脱するか(A-1),(2)日本の国籍を選択し,外国の国籍を放棄する宣言をするか(選択の宣言,A-2)のどちらかです(国籍法14条2項)。これは,どの二重国籍者も行わなければならない法律上の義務です。
 「選択の宣言」(A-2)をした二重国籍者でも,外国の国籍を離脱するよう努めなければなりません(国籍法16条1項)。これは,いわゆる努力義務(B)ですので,行わなくとも,法律違反にはなりません。

 

3.国会議員の二重国籍
 ところで,日本国民は,衆議院議員については25歳以上,参議院議員については30歳以上であれば,立候補することができます(公職選挙法10条1項1号2号)。外務公務員(大使,公使,外務職員など)については,外国の国籍を持つ者はなれない旨が明確に規定されていますが(外務公務員法7条1項),二重国籍者が国会議員に立候補することは特に禁じられていません(公職選挙法11条,11条の2参照)。
 しかしながら,議員の選定は,日本国民固有の権利であることを鑑みると(憲法15条1項),二重国籍者にわが国の国会議員の被選挙権を与えることは慎重であるべきであるといえるでしょう。立法論としては,議員や国家公務員等に外務公務員法7条1項のような規定を設けることも検討すべきであると思います。

 

4.自民党の小野田議員のケース
 自民党の小野田紀美(きみ)議員が,二重国籍者であることが報道されました。小野田議員は,平成28年7月の参議院選挙において岡山県選挙区で当選した参議院議員です。
 小野田議員は,戸籍をフェイスブック上で公開し,「選択の宣言」を行っていたが,外国籍の離脱を行っていなかったので,これを行った旨説明しています。
 すなわち,参議院選挙前年の平成27年10月1日に,国籍「選択の宣言」を行っているため(上記A-2),立候補時点や当選時点においては国籍法14条違反はありません。
 問題は,選択宣言後のアメリカ国籍の離脱の手続き(国籍法16条1項)を行っていなかった(上記B)ことです。ただし,これは努力義務であるため,法律違反とはいえません。また,これらの手続について,戸籍を公開し,フェイスブックで説明していることから,政治的な説明責任も果たしたといえるでしょう。

 

5.民進党の蓮舫代表のケース
 これに対し,いわゆる二重国籍問題の端緒となった民進党の蓮舫代表は,現時点では戸籍を公開していません。
 選択の宣言をしたのか(国籍法14条2項,上記A-2),選択宣言後に外国籍の離脱をしたのか(国籍法16条1項,上記B),まだ何も行っていないのか,それとも外国籍だったのちに「帰化」(国籍法4条以下)したのか,明らかではありません(立候補の際に,戸籍を提出するでしょうから,日本国籍を持たずに参議院議員になった可能性は低いと思われます)。 
 これらは戸籍の公開で明らかとなりますが,なかなか公開しないところをみると(公人なのでプライバシー権は制限されます),最近になって「選択の宣言」(上記A-2)をしたのではないかと疑ってしまいます。政治的には説明義務があるといえますが,その説明が二転三転していることから,国民の信頼を取り戻すのは相当難しいのではないかと思われます。